知ってトクする!目からウロコのモーター速度制御

小型速度制御モーターの分野では、存在感のないブラシレスモーター。
活躍が見込めそうなシーンでも、インバータ駆動の三相モーターかサーボモーターという2強の陰に隠れがちだ。
そこで今回は、ブラシレスモーターの知られざる実力にフォーカス。
インバータやサーボによる速度制御と比較しながら、その知ってトクする使いどころを徹底解説していきたい。

知って得する目からウロコ

知って得する目からウロコ

インバータ? サーボ?速度制御に何使う?

インバータ? サーボ?速度制御に何使う?

 小型モーターによる速度制御と言えば、「三相インダクションモーターを汎用インバータで制御」が定番。特に搬送系などでは、将来的なことを考えて「とりあえず、駆動速度を自由に設定、変更できる余地」を残しておける、この組み合わせを選ぶのは当然かもしれない。
 確かにインバータは一般的ではある。が、「ワークの変化(重量や粘性)で速度が都度変化するのは好ましくない」とか「工程間はできるだけ高速、検査中は低速で搬送したい」とか、「複数台の速度を同期させて動かすために速度の合わせこみが必要。でも面倒」といった不満やニーズには対応できているだろうか。
 「そういう場合はサーボモーターを採用するよ」という声も聞こえてきそうなので、この件についてもう少し考えてみよう。速度、トルクが不足する場合、モーターをサーボにランクアップしていいだろう。だが、三相モーターをインバータ駆動していたことを考えるとコストが高くなるのが問題だ。速度の安定性や複数台の同期の問題も、サーボ採用なら解決できるが、これもコストとのバランスを考えると、場合によっては妥協せざるを得ないこともあるかもしれない。使い勝手とコスト、両立できる製品はないのだろうか?
 実は、こんなときに有効な第3の選択肢がある。それが「ブラシレスモーター」だ。知らない人が多そうなので、まずは速度制御モーターとしてのポジションを明らかにしよう。そのうえで、インバータやサーボによる速度制御とはスペック面でどう違うのか、使い分けポイントなどを解説していくので、この機会にサクッと理解を深めてスマートな選定ワザをモノにしてほしい。

サーボライクな性能をインバータ並みの価格で?第3の選択肢、ブラシレスモーターとは

 ブラシレスモーターのポジションは、簡単に言うとインバータとサーボモーターの中間。「インバータに近い低価格で、サーボモーター同様の速度制御ができる速度制御専用モーター」だ。順番に説明しよう。

構造・特性はサーボモーターに似ている

オープンループ ― インバータ制御のデメリット

 インバータは、モーターの運転状況をドライバにフィードバックしないオープンループ制御をおこなっている。オープンループでは負荷が変動したとき、指令に対して実速度が追従しない。負荷によって速度が変わったり、複数軸の速度の同期が難しいのはこのためだ。また、三相モーターの元来のトルク特性として、低速域、高速域でのトルク落ち込みがあるため、狙った速度・トルクを同時に得にくい。同じ速度での運転を継続する場合には良いが、低速から高速まで幅広い速度域で多段速運転したい用途にはあまり適さないと言えるだろう。

優れた速度特性 ― クローズドループのサーボとブラシレスモーター

 一方、サーボモーターとブラシレスモーターはというと、どちらもPMモーター(ローターに永久磁石を使用)を採用しているほか、モーターの運転状況をドライバにフィードバックするシステムによりクローズドループ制御をおこなっている。そのため指令に対する追従性が高く、2軸の速度を同期させることも可能だ。低速でも高速でもトルクがフラットに発揮される。どんな指令速度でも、負荷が変化しても、駆動速度が安定するから、どちらもインバータでは思うようにならなかった用途に向くというわけだ。

ワイドな速度比&低速から高速までフラットトルク

万能&高価 VS 専用&安価 ― サーボモーターとブラシレスモーターの違い

 もちろん、サーボモーターとブラシレスモーターにも違いがある。大まかに言ってしまえば「高性能で万能な制御ができる」か、「速度制御だけ」なのかということだ。
 サーボモーターは、モーターにエンコーダを搭載し、高精度で正確な位置制御や速度制御、トルク制御を可能にしている、とても万能なモーター。分解能にもよるが、精密なエンコーダはモーター構成要素の中では高額なパーツである。
 一方のブラシレスモーターは速度制御に機能が絞られている。位置決め制御が必要なければ、ホールIC(センサ)でも十分高精度な速度制御を実現できる。ホールICはエンコーダより簡素で安価。つまり、速度制御に特化したことで、万能なサーボモーターと比較して価格を抑えることができるのだ。
 ちなみに、搬送系などで必須の減速機についても事情は同様。ブラシレスモーターは三相モーターとほぼ同じ、小型でリーズナブルな平歯車ギヤの標準品を使用できるが、高精度な位置決めができるサーボモーターでは、遊星機構による高精度・高強度な減速機を組み合わせるのが一般的で、おのずと高価になる。速度制御に特化したか、万能なのか、の違いがここにも現れているのだ。
 小型速度制御モーターは、三相モーターのインバータ制御かサーボモーターの二者択一ではない。二者の間にはブラシレスモーターという有用な選択肢があることを覚えておいて欲しい。

インバータに近い価格
BMUシリーズ

調整レス、小型、省エネ…速度制御だけじゃないブラシレスモーター

 速度制御に特化したメリットは「高精度な速度制御がリーズナブルに得られること」だけではない。
 ブラシレスモーターは、インバータ制御の三相モーターと比べてサイズが薄型になり、高トルク。しかも、高効率な永久磁石入りモーターなので圧倒的に省エネだ。
 何より特筆すべきは、調整レスで立ち上げが簡単なこと。速度制御専用なので、インバータやサーボモーターのようにパラメータ設定や調整をしなくてもすぐに使え、時間と手間が省ける。

 また、電源をAC入力、DC入力から選ぶことができたり、制御・操作インターフェースの種類が豊富というのもインバータやサーボモーターにはないユニークポイントだ。直感操作、ネットワークの利用、バッテリ駆動、モーター回路一体型といった多様なニーズに応えるラインアップも、設計の自由度を高めてくれるだろう。
 ここまで、速度制御ができるモーターと回路としてインバータやサーボモーターを引き合いに出してきたが、下に検討の際のポイントを比較表としてまとめてみたので、こちらも参考にしてほしい。ブラシレスモーターも検討する余地があるということがわかるはずだ。 小型産業用モーター(1W~750W程度)における速度制御用途モーターの比較

必要な最高速度、速度変動率を確認し、仕様と手間、コストのバランスを考えながら最適なものを!
比較項目 インバータ + 三相モーター ブラシレスモーター サーボモーター
構成、構造、
システム
三相インダクションモーター

汎用インバータ
(それぞれ別売)
マグネットモーター(SPM型)に
センサ搭載+専用ドライバ
マグネットモーター(SPM型/IPM型)に
エンコーダ搭載+専用ドライバ(アンプ)
ローター位置検出を
ホールIC(センサ)でおこなう以外は
サーボモーターとほぼ同じ
ローター位置検出をエンコーダで
おこなう。センサより高精度。
オープンループ

オープンループ

クローズドループ

クローズドループ

制御機能 精度を求めない速度制御 速度制御(トルク制御一部可能) 速度制御、位置制御、トルク制御
回転速度
(速度比)
100~2400r/min(1:24) 80~4000r/min(1:50) ~5000r/min
トルク
負荷がかかると速度が低下
負荷がかかっても一定トルク・一定速度
参考価格
モーター(ギヤなし)
+回路
90W
約25,000円~

比較的安価
120W
約27,000円~

サーボモーターより安価
100W
約103,000円~

制御モーターの中では比較的高価
(エンコーダ精度、出力によって差)
モーター外形 インダクションモーター インダクションモーターと同じ取付角でL寸(モーター奥行き側の長さ)が非常に短い 出力に対して取付角が小さいがL寸(モーター奥行き側の長さ)が長い
効率・
省エネ性能
誘導モーターの効率は高くない 永久磁石を使用したモーターで高効率
速度変動率
(対負荷)*
-3~-15%程度 ±0.2~±0.5%程度 ±0.01%程度
応答性 低い 高い 高い
オーバーラン あり
バラツキ大きい
あり
バラツキ小さい
高精度な位置決めをおこなう
適する運転 同じ速度での運転が中心
手っ取り早く速度を変更したい
速度を変えても安定したトルク、速度で運転できる
多段速運転
高応答、高精度な位置決め、速度制御、トルク制御がしたい
多段速運転

*定格回転速度において、0~定格トルクまたは許容トルクの負荷をかけたときの回転速度の変化量