カーボンニュートラル対応は、製造業の事業継続に資する
東京工業大学名誉教授 コージェネ財団理事長 柏木孝夫氏インタビュー

製造現場のDX改革で、コスト課題解決と電力の安定供給を目指す

東京工業大学名誉教授 コージェネ財団理事長 柏木孝夫氏

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、製造業での対応が急務になっています。特に、工場での消費電力が多い半導体業界などでは、製造コストに大きく影響する課題で、CO2排出量の少ない再生可能エネルギーやクリーンエネルギーへの転換が急がれます。製造業が安定的に生産を続け、売上を確保していくためには、カーボンニュートラル対応が必須である一方、経営指針には掲げられているものの、現場では「企業イメージは向上するけれど、生産に直結する問題ではない」と、対応を先送りにしている声も聞こえます。本稿では、日本の環境エネルギー分野における第一人者で、国のエネルギー政策に深く関わる、東京工業大学名誉教授/コージェネ財団理事長 柏木孝夫氏の見解を交えながら、製造業の事業継続に関わるカーボンニュートラルに向けた方向性について考察します。

DXとGXで「インターネットオブエネルギー」の世界を目指す

21世紀において、産業構造を変化させるキーワードはDX(デジタルトランスフォーメーション)とGX(グリーントランスフォーメーション)の2つです。工場の中のデジタル化を進めるDXが先にあり、産業構造をクリーンエネルギー中心に移行させるGXがその先にあります。20世紀まで産業の基盤といわれていたのは鉄ですが、21世紀にはそれがデータに変わりました。データ化することで、インターネットやIoTが活用でき、サイバーエリアとフィジカルエリアがつながることで、細かな制御が可能になります。「データとネットワーク活用により、生産工程自体をIoE(インターネットオブエネルギー)の世界へと構築していけます。IoEとはSociety5.0時代のエネルギーシステムのことで、様々なエネルギーデバイスがネットワークに接続され、情報交換することにより、相互にエネルギーの需要制御・管理を行う仕組みになります」と国立大学法人 東京工業大学 名誉教授 柏木孝夫氏は語ります(図1)。

図1

IoE 社会のイメージと取り組むべきテーマ
出典: 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)柏木孝夫「IoE社会のエネルギーシステム」を基に作図

IoE社会の実現には、高性能のパワーエレクトロニクス機器による再生可能エネルギーのさらなる利用促進や、IoTで使われるセンサーへのワイヤレス電力伝送によるエネルギーマネジメントの精緻化・高度化などが求められます。パワーエレクトロニクス技術が半導体で行われるようになると、高速デジタル変換が可能になり、IoE社会が現実化していきます。そうすると、石油に代わって半導体がエネルギーシステムの中核になっていきます。

グリーントランスフォーメーション(GX)のカギは省エネ、電化、水素

GXでは、省エネ、電化、水素の3つがカギを握ります。省エネについては、電力消費量を減らす数々の取り組みによって、以前から一貫して進められてきています。電化については、再生可能エネルギー由来のゼロエミッション電源をいかにうまく使うかがポイントになります。どこの国でも、太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスといった再生可能エネルギーを、主力電源化していく方向を目指しています。

「日本では中小規模の水力は割高になって得策ではなく、地熱も温泉法の関係で難しい。そのため、今後10年ほどは太陽光と風力が中心になりますが、天候に左右され、発電する電力の変動幅が大きくなります。そこで、DXとGXを一体化させて、変動性をできる限り小さく抑えることが肝要で、そのためにはDXを機能させ、しっかりと制御していくことが大切です」(柏木氏)

電化の例で一番分かりやすいのは電気自動車(EV)で、自動車は現在、日本のCO2排出量の17%ほどを占めますが、EVになるとほぼゼロになります。そしてEVで使われたバッテリーで少し劣化したものを自宅に置き、屋根の太陽光発電と一体化することで、変動性を吸収していくことができます。

同じように、工場で太陽光と風車を導入すると、バッテリーが必ず必要になります。それがEVと一体になれば、今まで昼間、駐車場に置いておくだけだった従業員の車が太陽光発電の制御用電池として機能します。これによって、工場内の駐車場は蓄電システムとなり、デジタル化によって、再生可能エネルギーをベースにした工場を作ることが可能になります。

このように考えると、DXとGXを一体化する考え方の中に、工場の今後のあり方も見えてきます。「水素は工場では作ることができず、現在の日本では潤沢に供給できる状況ではありません。しかし、選択肢として残しておいて、今後の社会情勢に合わせて供給を拡大していくことが重要です」(柏木氏)

コージェネレーションシステムで自社電源を用意し、エネルギーを安定確保

電力自由化に対応するために、製造業が直ちに取り組まなければならないのは、必要なエネルギーを安定的に確保するエネルギーセキュリティーになります。

工場の省エネに取り組んでも、設備の電化が一層進むので、電力消費量は全体としてはあまり減りません。それもあり、製造業では自社で電源を用意しておかないと、将来的に事業が成り立たなくなる可能性もあります。自社電源の場合、ゼロエミッションの制約を受けるので、エンジンやタービン、あるいは燃料電池、太陽光発電などを利用した、分散型電源になります。コージェネレーションシステム(熱電併給)で熱源から電力と熱を作り、供給していくことを考えるべきでしょう(図2)。

図2

熱源から電力と熱を生産し供給するコージェネ(熱電併給)
出典: コージェネ財団「コージェネの基本形態」を基に作図

コージェネシステムはCO2を排出するものの、同時に電力と熱が供給されるので、全体としては省エネになります。

「エンジンやタービンは次第に高効率化していくでしょう。加えて、ガスのメタネーションで効率がさらによくなり、CO2排出量が少なくなるか、CO2フリーのメタンになれば、カーボンニュートラルが達成されます」(柏木氏)

自社電源の電力を外部にも販売、新たなビジネスモデルを作り出す

自社で発電設備を導入すれば、外部に売電する新たなビジネスを創出することも可能です。工場の分散型電源を、DXによる高度なエネルギーマネジメント技術でアグリゲーション(集約)し、遠隔・統合制御するバーチャルパワープラント(仮想発電所:VPP)で、電力の需給バランスを調整すれば、製造業は電力を使うだけでなく、売ることもできます。

オリエンタルモーターでは、カーボンニュートラルに貢献できる省エネルギーの製品や、最適な製品を選ぶための選定サービスなどをご用意しております。製品とサービスの提供を通じてカーボンニュートラル貢献を支援しています。

「カーボンニュートラル対応によって製造業は、環境や社会に貢献するとともに、ESG投資の対象となり、事業継続性を高めることができます。安定的な生産供給やコストに影響することを認識し、自社の価値を向上させる対策を推進してほしいと思います」(柏木氏)

PROFILE

東京工業大学名誉教授 コージェネ財団理事長 柏木孝夫氏

柏木 孝夫(かしわぎ・たかお)
国立大学法人 東京工業大学 名誉教授 工学博士/国立大学法人 電気通信大学 客員教授/一般財団法人コージェネレーション・エネルギー高度利用センター 理事長

東京工業大学工学部卒業後、米国商務省NBS(現NIST)招聘研究員、東京工業大学助教授などを経て、東京農工大学工学部教授に就任。2007年、東京工業大学大学院教授に就任し、先進エネルギー国際研究センター(AESセンター)を立ち上げ、センター長となる。 経済産業省産業構造審議会委員等、数々の公職を歴任。長年、国のエネルギー政策づくりに深く関わる。エネルギー・環境システム分野において受賞歴多数。著書・論文・解説は500編を超える。

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