5-2. 許容慣性モーメントの確認

仮選定したモーター(ギヤヘッド)の許容負荷慣性モーメントが、機構の負荷慣性モーメントより大きいことを確認します。

5-2-1. 負荷慣性モーメントの算出

駆動機構の条件をもとに、負荷慣性モーメントを算出します。慣性モーメントは、機構と搬送物のそれぞれに発生します。
それぞれの慣性モーメントを求めた後、それらの値を合計し、装置の全負荷慣性モーメントを求めます。

機構の慣性モーメントの求め方

機構の慣性モーメントは以下の計算式で算出します。

円柱

円柱の慣性モーメントの計算式

【円柱の質量がわかる場合】

$$\bbox[6pt, border: 1px solid black]{ \begin{equation} \quad J_X=\frac{1}{8} m_1 \cdot {D_1}^2\left[\mathrm{~kg} \cdot \mathrm{m}^2\right] \hspace{40pt} J_y=\frac{1}{4} m_1\left(\frac{{D_1}^2}{4}+\frac{L^2}{3}\right)\left[\mathrm{kg} \cdot \mathrm{m}^2\right]\quad \end{equation}}$$

【円柱の質量が不明の場合】

$$\bbox[6pt, border: 1px solid black]{ \begin{equation} \quad J_X=\frac{\pi}{32} \rho \cdot L \cdot {D_T}^4\left[\mathrm{kg} \cdot \mathrm{m}^2\right] \hspace{40pt} J_y=\frac{\pi}{16} \rho \cdot L \cdot {D_1}^2\left(\frac{{D_1}^2}{4}+\frac{L^2}{3}\right)\left[\mathrm{kg} \cdot \mathrm{m}^2\right] \quad \end{equation}}$$
  • ※ 上記以外の慣性モーメントの計算式については、技術資料に掲載しています。
  • Jx
    x軸に関する慣性モーメント
    Jy
    y軸に関する慣性モーメント
    m1
    質量 [kg]
    D1
    外径 [m]
    L
    長さ [m]
  • ρ

    密度 [kg/m3]

    7.9 × 103
    黄銅
    8.5 × 103
    ステンレス
    8.0 × 103
    アルミ
    2.8 × 103
    ナイロン
    1.1 × 103

ワークの慣性モーメントの求め方

実際に搬送するワークの慣性モーメントは以下の計算式で算出します。
直動機構の場合は、搬送テーブルの慣性モーメントも含みます。

直動運転する物体の慣性モーメントの計算式

$$\bbox[6pt, border: 1px solid black]{\begin{equation} \quad J=m\left(\frac{A}{2 \pi}\right)^2\left[\mathrm{~kg} \cdot \mathrm{m}^2\right]\quad\end{equation}}$$
  • ※ 上記以外の慣性モーメントの計算式については、技術資料に掲載しています。
  • Α : モーター軸1回転あたりの移動量 [m]
  • m : ベルトとワークの総質量

負荷慣性モーメントの計算例

手順

① 機構の慣性モーメントを求める

② ワークの慣性モーメントを求める ※ 直動駆動の場合、搬送テーブルの慣性モーメントを含む

③ 全負荷慣性モーメントを求める

プーリの慣性モーメント(JP)を求める

\(\begin{aligned} \large{\text { プーリの慣性モ一メント }} J_P & =\frac{1}{8} M_P \cdot D^2 \\[ 6pt ] & =\frac{1}{8} \times 0.5\ [\mathrm{~kg}] \times 0.08^2\ [\mathrm{~m}] \\[ 6pt ] & =4 \times 10^{-4}\ \left[\mathrm{~kg} \cdot \mathrm{m}^2\right] \end{aligned}\)

機構条件

  • MP(プーリの質量) : 0.5 [kg]
  • D(プーリの直径) : 0.08 [m]

ベルトとワークの慣性モーメント(JW)を求める

\(\begin{aligned} \large{\text { ベルトとワークの慣性モーメント }}J \mathrm{w} & =\mathrm{m}\left(\frac{\mathrm{A}}{2 \pi}\right)^2 \\[ 6pt] & =5.5\ [\mathrm{kg}] \times\left(\frac{0.08\ [\mathrm{m}] \times \pi}{2 \pi}\right)^2 \\[ 6pt ] & =88 \times 10^{-4}\left[\mathrm{kg} \cdot \mathrm{m}^2\right] \end{aligned}\)

機構条件

  • m(ベルトとワークの総質量) : 5.5 [kg]
  • D(プーリの直径) : 0.08 [m]
  • Α(モーター軸1回転あたりの移動量)の算出に必要です

全負荷慣性モーメント(JL)を求める

プーリの慣性モーメント(JP)と、ベルトとワークの慣性モーメント(JW)を合計し、全負荷慣性モーメント(JL)を求めます。

右図の通り、プーリは2個分として計算します。

全負荷慣性モーメント(JL)を求める
\(\begin{aligned} \large{\text { 全負荷慣性モ一メント }} J_L & =J_P \times 2\ [\text{個}]+J \mathrm{w} \\[ 6pt ] & =4 \times 10^{-4}\left[\mathrm{kg} \cdot \mathrm{m}^2\right] \times 2+88 \times 10^{-4}\left[\mathrm{kg} \cdot \mathrm{m}^2\right] \\[ 6pt ] & =96 \times 10^{-4}\left[\mathrm{kg} \cdot \mathrm{m}^2\right] \end{aligned}\)

5-2-2. 許容慣性モーメントの確認

ギヤヘッドの許容負荷慣性モーメントを求め、5-2-1. 負荷慣性モーメントの算出で求めた負荷慣性モーメントの値以上であるか、確認します。
ギヤヘッドの負荷慣性モーメントは、モーター軸許容負荷慣性モーメントとギヤヘッド減速比から求めます。

ギヤヘッド出力軸における許容負荷慣性モーメント

許容慣性モーメントの確認例

全負荷慣性モーメント JL = 96 × 10-4 [kg・m2]

ギヤヘッドの許容負荷慣性モーメント を求めるには、モーター軸の許容負荷慣性モーメントが必要です。
仮選定したモーター2IK6GN-AW2J のモーター軸における許容負荷慣性モーメントは0.062 × 10 - 4 [kg・m2]です。
モーターの仕様は品名の見方よりご確認ください。

モーター軸における許容負荷慣性モーメント

モーター軸の許容負荷慣性モーメントと減速比から、ギヤヘッドの許容負荷慣性モーメントを求めます。
今回は、減速比i=90なので、減速比1/60以上の公式を使って計算します。

減速比1/60以上の場合 : \({J_G} = {J_M} \times 2500\)

\(\begin{aligned} J_G & = J_M \times 2500\ \left[\mathrm{kg} \cdot \mathrm{m}^2\right] \\[ 6pt ] & = 0.062 \times 10^{-4}\ \left[\mathrm{kg} \cdot \mathrm{m}^2\right] \times 2500 \\[ 6pt ] & = 155 \times 10^{-4}\ \left[\mathrm{~kg} \cdot \mathrm{m}^2\right] \end{aligned}\)

ギヤヘッドにかかる全慣性モーメント96 × 10-4 [kg・m2]よりも、ギヤヘッドの許容負荷慣性モーメントが大きいことが確認でき、仮選定した2IK6GN-AW2J2GN90Kが、条件を満たすことがわかりました。ブレーキパックとともに、品名を確定します。

製品種別 品名 商品特徴ページ
インダクションモーター 2IK6GN-AW2J
ギヤヘッド 2GN90K
ブレーキパック SB50W

ご注意

機構の負荷慣性モーメントが、許容負荷慣性モーメントを超える場合、瞬時停止するときに、瞬間的に大きなトルクが発生します。
このときの衝撃負荷が過大であると、モーターおよびギヤヘッドが破損する恐れがあります。
モーター(ギヤヘッド)を使用する場合は、許容慣性モーメント以下でご使用ください。

計算結果が条件を満たさないときは、4-3. 品名の仮選定において、出力の大きいモーターを選定してください。

以上でモーターの選定計算は終了です。
コース内容にもとづいた確認テスト(解答付き)をご用意しています。理解度の確認や、復習用としてご活用ください。

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