3-1. ACモーターの温度上昇
ACモーターの温度上昇について説明します。
3-1-1. ACモーターの温度上昇と耐熱クラス
電気エネルギーの変換と損失
ACモーターは、入力した電気エネルギーを、回転という動力に変換し出力する、エネルギー変換装置です。
電気エネルギーは動力として100%変換されるわけではなく、一部のエネルギーは損失(熱)となります。

モーターの温度上昇は、運転時間の制限や、モーターの寿命に影響します。
関連情報
運転時の損失が少ないことを、一般的に「高効率」「効率が良い」と表現します。
現代は、工場・装置の省エネ化などの課題から、高効率なモーターの需要が世界的に高まってきています。
このような、エネルギー問題をめぐるACモーターの最新事情については、知ってトクする!目からウロコ「小型ACモーター&速度制御のすべて」をご覧ください。
各国のモーターエネルギー効率規制についても紹介しています。
モーターの耐熱クラスと焼損
耐熱クラスとは、絶縁材料の耐熱グレードによる区分です。JIS規格で定められています。
当社のACモーターは、下表のE種(120℃)またはB種(130℃)のどちらかに分類されます。分類はシリーズごとに異なります。
耐熱クラス [種] | Y | A | E | B | F | H | N | R | - |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
巻線許容温度 [℃] | 90 | 105 | 120 | 130 | 155 | 180 | 200 | 220 | 250 |
モーターの内部温度が耐熱クラスの値を超えてしばらくすると、巻線の皮膜が溶けショートします。この現象を焼損と呼びます。
焼損したモーターは動かなくなります。また、焼損しなかった場合も、温度上昇はモーター寿命に影響します。
運転時は、巻線許容温度を超えないよう注意してください。
モーター内部の巻線温度は直接測定できないため、参考としてモーターケースの表面温度を測定します。
当社のACモーターの場合、巻線とモーターケースの温度差は、最大で30℃です。耐熱クラスごとの目安を、下表にまとめます。
耐熱クラス [種] | Y | A | E | B | F | H | N | R | - |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
巻線許容温度 [℃] | 90 | 105 | 120 | 130 | 155 | 180 | 200 | 220 | 250 |
ケース表面温度目安 [℃] | 60 | 75 | 90 | 100 | 125 | 150 | 170 | 190 | 220 |
当社のACモーターは、モーターケース温度が90℃以下であれば、焼損することはありません。
モーターケースが熱いと感じたときは、モーターケースの表面温度を測定します。90℃以下であれば問題ありません。
まとめ
ACモーターを運転すると、損失が発生し、モーター内部の巻線温度が上昇する
巻線には許容温度があるが、許容値以内であれば、モーターが焼損する心配はない
当社のACモーターの場合、モーターケースの表面温度が90℃以下であれば問題ない
3-1-2. ACモーターの運転定格時間
実際にモーターを運転した時の、モーター巻線の温度上昇について紹介します。
運転時間の経過によるモーター巻線温度の変化
当社では、モーターにとって一番厳しい条件でACモーターの温度上昇・時間定格を規定しています。
測定条件
- 周囲温度: 50℃(モーター仕様の上限値です。製品により異なります。)
- 負荷条件: 単相モーターの場合は無負荷時、三相モーターの場合は定格負荷時
- 外部からの強制冷却なし(空気の流れや外部ファンによる冷却はありません。)
- モーター単体(ギヤヘッドや放熱板はありません。)
測定結果
上の条件での、インダクションモーターとレバーシブルモーターの巻線温度の変化を測定したグラフです。

グラフ縦軸の120℃(130℃)は、E種(B種)の耐熱クラスのラインです。モーターの許容巻線温度を表します。
インダクションモーター : 「連続定格」
インダクションモーターの場合、時間の経過に関わらず、許容巻線温度以下で飽和します。
連続運転しても、焼損の心配がありません。そのため、インダクションモーターは「連続定格」です。
レバーシブルモーター : 「30分定格」
レバーシブルモーターの場合、30分を過ぎたあたりで、許容巻線温度に達します。
そのため、レバーシブルモーターは「30分定格」です。
ただし、定格時間はあくまで目安です。周囲環境によって、温度上昇の程度は変化します。
今回の測定条件は、モーターの使用条件上一番発熱が大きくなる条件で規定しています。
モーターを使用する際は、モーターケースの表面温度が90℃以下、を基準に判断してください。
巻線許容温度と、モーターケース温度の温度差の目安は、3-1-1. ACモーターの温度上昇と耐熱クラスで説明した通りです。
モーターの温度が高くなる原因について
モーターの温度上昇が気になる時は、周囲環境を見直してください。
以下は、モーターの温度が高くなる原因の例です。
- 周囲温度が高い
- モーター軸が拘束されている
- 電圧が高い
- 電圧降下が大きい
- コンデンサの容量が定格より大きい
- 頻繁な起動と停止(ブレーキパックによる制動を含む)
周囲温度を下げるなど、条件を変えることで、温度上昇を抑えられる可能性があります。
まとめ
当社のインダクションモーターは、仕様内であれば連続して運転できる「連続定格」である
当社のレバーシブルモーターは、仕様内において一番厳しい運転条件下の場合、「30分定格」である
定格時間は目安であり、モーターケースの表面温度が90℃以下であれば、定格時間を超えて使用できる
3-1-3. ACモーターの焼損保護機能
ACモーターの温度上昇が許容巻線温度を超えると、焼損や、寿命に影響する恐れがあります。
そこで、一部のACモーターには、焼損保護のための過熱保護装置を内蔵しています。
機能搭載の有無は、モーターの仕様表や銘板で確認できます。
サーマルプロテクタ(TP)
サーマルプロテクタとは、許容巻線温度に達する前に、モーターへの入力を切る機能のことです。
モーター内部の巻線温度を感知し、一定の温度を超えてしまった場合、動力線の接点を開き、モーターを停止します。
モーター内部の巻線温度が一定の温度より下がると、自動的に復帰し、運転を再開します。

当社のACモーターでは、仕様表や銘板に「THERMALLY PROTECTED」または「TP」と印字されているものには、自動復帰型のサーマルプロテクタが搭載されています。取付角寸法70mm~104mmの一部モーターに内蔵されています。
自動復帰型サーマルプロテクタの動作イメージ
自動復帰型サーマルプロテクタは、温度によって接点を自動でON/OFFします。
右図は、サーマルプロテクタの動作の一例です。
- 開放(open):
- 130℃±5℃
- 復帰(close):
- 82℃±5℃
動作温度の仕様は、搭載製品により異なります。
また、サーマルプロテクタ動作時のモーター巻線温度は、上記の動作温度よりやや高くなります。

サーマルプロテクタが開放(open)されているとき、モーターは停止しているように見えますが、自動復帰して急に動き出す可能性があります。点検などで装置に人が触れるときは、安全のため、モーターの電源を切ってから作業してください。
インピーダンスプロテクト(ZP)
インピーダンスプロテクトとは、モーターの巻線のインピーダンス(抵抗)を大きくし、モーターが拘束されても、入力の増加を小さく抑えることのできる機能のことです。
インピーダンスプロテクトモーターでは、温度上昇が許容巻線温度に達しないよう設計されています。
当社のACモーターでは、仕様表や銘板に「IMPEDANCE PROTECTED」または「ZP」と印字されているものは、インピーダンスプロテクトモーターです。取付角寸法60mm以下の一部モーターが対象です。
まとめ
一部の当社のACモーターには、焼損保護のための過熱保護装置が内蔵されている
サーマルプロテクタ(TP)は、巻線許容温度に達する前に、入力をOFFにする機能である
インピーダンスプロテクト(ZP)は、モーターが拘束されても許容巻線温度に達しないようにする機能である
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